突然雨が降り始めた。
「シトシト」という色気のある雨音なら良かったのだが、今日は違うようだ。
頬のシワの間に叩きつけるように打ち付けてくる。
痛えな、もう。
よくもまあ飽きず降り続くもんだ。
そうだ。
そう。
雨の季節は嫌いじゃなかったっけ。
雨の思い出と言えば「刑法」。
そして「ドトール」。
受験生だった頃、ドトールでひたすら刑法の肢別本を解いていた。
一番安いブレンドコーヒーを注文し、背を丸めて時間を忘れて解いていた。
ドトールに入る日は何故か雨が多かった。
窓越しに見たあの雨が忘れられない。
きっと私の将来は輝いている、とか。そんな淡い、しかし確固たる思いがそこにはあった。
鬱陶しい雨ですら美しく見せてくれた。
思いを乗せた風景は今でも記憶の片隅に鎮座している。
今私の目に見える雨はどうか。
思いのない風景はどうか。
別物だって認めたくない。
でも。
「くだらねえ」
一人呟いて便器に勢いよく唾を吐き捨てた。
もう雨が嫌いになりかけている。
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梅雨が明ける頃。
例年にない夏の司法試験がやってくる。