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アルマさんとデート2(青の日)

恋愛日記

藍色の花弁の下に佇んでいたのは

アルマさんだった。

セレクトショップで購入したであろう白いブラウスに、カフェ・モカ色のパンツを合わている。顔はやはり当初の印象通り、女優の小西真奈美さんに似ていた。知的な印象の中に、ふんわりした雰囲気。どこか隙のあるところが、男性ならばその先を期待してしまう。包括的な表現を用いるならば、全世界の男性ほぼ全てが、抱けるものなら抱きたいと思うであろう綺麗な女性である。おそらくこれまで多くの男性に言い寄られてきたのではないか、と想像するに難くない。

申し訳なさそうに眉をハの字にさせている。新型コロナウイルス対策のマスクのせいか、一瞬当人と判別するのに暇を要したが、私の心は明らかに躍っていた。この古くない覚えのある鼓動、ああ、彼女に違いない。

透き通るような白い頬が少しだけ桃色がかっている。遅れの時間を取り戻そうと急いで来てくれたことを証明するには十分すぎた。私のような中年男性と並んでもらうだけでも申し訳ないと思えるほど、綺麗である。

「ごめんなさい。八神さん、だいぶ待ったんじゃないですか?雨の中本当にすみません。」

息を切らして一生懸命に謝罪する姿が愛らしい。むしろ私としては、立場が優位になった気がして、全く悪い気はしなかった。相手が美人であればあるほど、その優位性は私の支配欲求を満足させる。

「いえ、全然待っていませんよ。私もさっき到着しました」

一見極めて明白な嘘ではあるが、彼女を少しでも安心させるには必要かつ優しい嘘であった。

雨で濡れているせいか彼女が身に付けている白いブラウスがうっすらと透けているのが見てとれる。この時ばかりは鬱陶しい雨にも感謝したい。最大級の賛辞と謝辞を表したい。そして言わずもがな、薄着という大義名分を与えてくれたこの夏という季節にも。

並んで歩きだすと、歩幅も歩くスピードも丁度いい。とても気持ちが良いのだ。

歩きながら定石である天気の話を冒頭に、そつのない会話を展開する。今回の目的はあくまで司法試験に関する話題がメインである。しかし私の関心は目下ブラウスのその先、とりわけ胸元にあったのも事実である。

雨で弱まった貧弱なブラウス生地の防衛ラインを一気に搔い潜り、彼女が纏う下着の色を確認してみたいと思った。

もはや包み隠す必要などない。何の躊躇があろうか。結局男というものはそういう生き物なのだ。女性を敵に回しても男性ならばこの感覚は理解してくれると思う。

並んで歩く当人には気づかれないように視線を彼女の胸元に集中させる。視線を「盗む」という表現の方が適切かもしれない。彼女の視線が私の視線の領域を侵犯すればすかさず引き返し、防御が甘くなれば間髪入れず胸元に視線を集中させる。その視線の攻防たるや、戦国時代の武士の鍔迫り合いの様相を呈していた。

視線の攻防がしばらく続く。

まるでCIAか何かのスパイになったかのような気分だ。ブラウスの「向こう側」を確認するというミッションを限られた時間の中で達成しなければならない。

そう、人生然り、時間も有限なのだ。

彼女は横に並ぶ中年男性が実は下心があることを理解しないまま、もはや無防備な胸元は雨という最高の好敵手のやり玉にあがり陥落寸前である。中年と並んで歩くこの若い女性は、まさか自身の胸元が中年の欲望の対象になっていることなど微塵も想像していないだろう。純粋に司法試験の事を相談しにやって来たはずなのに、中年の乱暴な下心の格好の標的となっている。可哀そうにすら思えるが、私だって飢えているのだ。私だって男なのだ。

そうこうしているうちに

絶好の好機がやって来た。

信号待ちで彼女が腕時計に視線を落とした瞬間。

時が止まった。

私は大きく賭けに出た。

視線を0.5秒間、彼女の胸元にフォーカスする。

この刹那、私の眼(まなこ)は歌舞伎役者が見得を切る時よりも寄り目になっていたと思う。

私はこの戦いに勝利した。完全に勝利した。

ブログの全読者に全身全霊でご報告したい。

水色である。

いや、違う。

いや、これは限りなく透明に近いブルー。

いや、それとも違う。

どこかで見た覚えのある色彩。

はっとした。

紛れもなくこれは世界中の映画ファンを熱狂させた鬼才北野武監督の

「キタノ・ブルー」であった。

彼女の胸元を守る布はキタノ・ブルーを彷彿させる神秘的かつ妖艶な雰囲気に満ちていた。

従来彼女は桃色や淡いピンク系統の下着を着用する傾向にあったが、今回ばかりは攻撃的なカラーをチョイスしたという印象を受けた。この攻撃力抜群のカラーは中年の下半身を刺激するには、十分に過ぎ、持て余した攻撃力で私自身の自我が崩壊させられるのではないかと恐怖心すら覚えた。

もはや色彩の暴力である。

どうしてそのような破壊力のある色を選択したのか、彼女の深層心理に最大級の興味を抱く。まさか私を挑発し、自宅に招き入れようとでも画策しているのか。中年男性を手玉に取って私の純粋な心を弄ぶ計画なのか。もしそうであるならば、願ったり叶ったりである。私も、普段は潜めている暴力的なセクシュアリティーを爆発させる用意はある。

雨の青、藍色の傘、そしてキタノ・ブルーのブラジャー。

2020年9月12日は「青の日」として私の記憶に深く刻まれるであろう。

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